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interview Vol.4

2020.04.26

未知のものに「すごくワクワクする」 イラストレーター・しらこが初個展後に“制覇”を狙うもの

 

”原体験“となった3人のイラストレーターとは

 

―話を戻しますが、昔からイラストを描く時は一貫してペンタブなんですか?

 

しらこ:ペンタブに替わったのは、大学に入って夏ぐらいですかね。ずっと欲しかったので。

高校の時は、「コピック」という何百種類も色があるマーカーを買って、それで美少女画の模写をしていたんです。たぶん数十枚は描いたと思います。

 

―えっと…。しらこさんのイラストから美少女画の気配って全く感じないですけど…。

 

しらこ:普通にネット上で気に入ったイラストを保存して、横に置いて描いてたりしてました。どのキャラクターが、ではなく、ただ「美少女を描きたい!」みたいな純粋な欲があって。

 

―面白いですね(笑)。

 

しらこ:mebae(※2)さんのイラストがすごい好きで。mebaeさんが解説している、イラストの描き方に関する本を買って、その内容に基づいて描いたりしていました。

※2 mebae…北海道出身のイラストレーター。Twitter上に投稿した、罵声を浴びせる美少女を描いた「罵声少女」は話題となり、後に書籍化された。
https://twitter.com/mebaeros

 

―「罵倒少女」ですよね? ebaeさんは今でも好きなんですか?

 

 

しらこ:mebaeさんはダントツですね。やっぱり線のクオリティが他の人とは違います

最近はかわいいイラストを見たいとは思わなくなっているんですけど、美少女画の中でもmebaeさんは身体のラインとか、肉のたるんだ感じとかかなり独特で、見ていて気持ちいいです。

 

―しらこさんの口からmebaeさんの名前が出てくるの、ちょっと感動しました。

 

しらこ:mebaeさんにはすごい感謝しているというか。美少女系ではあるけども、mebaeさんからイラストに入って、尊敬して模写とかしていましたから。

 

―当時ですが、mebaeさんのほかにどういう人が原体験だったんですか?

 

しらこ:カントク(※3)さんと、和遥(かずはる)キナ(※4)さんが2強でしたね。その頃は、お2人の顔の描き方がかなりかわいいと思っていました。カントクさんの目の描き方がすごい独特で、真似してたかな。

※3 カントク…兵庫県出身のイラストレーター。サークル「5年目の放課後」で活躍するほか、平坂読の人気ライトノベルシリーズ『妹さえいればいい。』(小学館)の装画などを手がける。
https://twitter.com/kantoku_5th

※4 和遥キナ…イラストレーター。サークル「僕と君と架空世界と」で活躍するほか、作品集『青春女子高生』(KADOKAWA)などがある。
https://twitter.com/kazuharukina

 

―驚きです。ちなみにそれはいつ頃なんですか?

 

しらこ:確か高校3年生の時ですね。

 

一番意識しているのは「パッと見の気持ちよさ」

 

―その後、大学の頃もずっと自学自習で?

 

しらこ:そうです。勉強で塾に行ってなかったこともあって、イラストも自分で勉強できると思っていたんです。

 

―自分で勉強するのは当たり前…みたいな感じなんですか?

 

しらこ:そうですね。

 

―正直なところ、イラストは学校で学ぶものだとあまり思っていない?

 

しらこ:学校で何を教えているのかをよく知らないので、ちょっとハッキリとは分からないんですけど。

自分で本とかを読んで吸収できる人と、できない人もいると思うし、学校でイラストも全然教えられると感じるけど、肝心のその内容はどのくらい正しいのか少し疑問で。

僕は本を通じてかなりいい知識を得たんですけども、そこに書かれたことが学校で教えられているかどうか。たぶん教えられていないと思うんです。

 

―海外の技法書を使ってよく勉強されたとうかがいました。海外のものを採用するのは何か理由があるんですか?

 

しらこ:英語が割とできたので、海外の本を読むことに抵抗がなくって。加えて、日本語で出版されているものより、英語で出版されているものの方が世界中で読まれているはずなので、英語の本のトップの方が、日本語の本のトップよりも絶対質が高いと思っていたことから海外の技法書を選びました。

 

―言われれば、確かに「そうだな」ってすごく納得しました。ちなみにその時よく勉強していた内容はどういうものだったんですか?

 

しらこ:風景画から入りました。それまでずっと人物というか、美少女の絵を描いてきましたが、途中からだんだん「背景を描きたい」という変化があったんです。

 

―「背景を描きたい」というのは、何か心境の変化があったんですか?

 

しらこ:どこかで美少女にそんなに興味がなくなっていったんだと思います。それよりは、もう少し絵全体の雰囲気みたいなものを描きたくて、だんだん背景とかを手がけるようになって、そこからさらに深く入りたいなと思って風景画とかを勉強し始めた感じ。

 

―その頃よく参考にしていた作家を教えていただきたいんですが。

 

しらこ:David Aguado(※5)という人、知っていますか?

※5 David Aguado…スペイン出身のイラストレーター、コンセプトアーティスト。後述するPorter Robinsonのアルバム『Worlds』のジャケットイラストを手がけている。
https://davidaguado.com/illustration

 

―この間の「アパートメントラジオ」で話されていた?

 

 

しらこ:そうです。大学の時に出会ったんですけど、彼の存在が一番大きいですね。それまで線画だったのが、線をなくして塗りで描くきっかけになった人です。

 

David Aguadoに触れるきっかけは何だったんですか?

 

しらこ:元々Porter Robinson(※6)が好きで。2014年に「Worlds」というアルバムを出したんですけど、そのジャケットがDavid Aguadoなんです。青みがかった空の背景にピンク色の手が浮かび、その手の中に立方体が描かれているというイラストで。

※6 Porter Robinson…アメリカ合衆国出身のDJ・プロデューサー。日本のアニメ好きで知られており、2016年にはA-1 Picturesとともに短編アニメーション『SHELTER』を制作。自身は原案原作のほか、フランス出身のプロデューサー・Madeonと楽曲を手がけた。
https://porterrobinson.com/

 

 

―じゃあ、その頃からイラストのタッチが変わってきた?

 

しらこ:David Aguadoを知ってからはそうですね。

 

―もうこの辺りのイラストから徐々に線が消えていますね。

 

 

しらこ:そうですね。ここで一回、David Aguadoの塗りの影響がある気がします。

 

―しらこさんのイラストを時系列で見ていくと、最初は画面の中心に大きく置かれていた人物の存在感がどんどん小さくなっていってると思うんですが…。これも全部David Aguadoの影響なんですか?

 

しらこ:影響もあるとは思いますし、やっぱり人を描くよりは全体の空気感を描きたくなっていったので、人物が自然に小さくなっていったのかと。

 

―なるほど。初期のイラストでは表情が全部ちゃんと入っています。が、時期が移り変わるにつれて、顔全体が塗りの塊のようになって表情がどんどん消えていっていますよね?

 

しらこ:完全に顔に興味がなくなって、人物を「画面を構成する要素」「ひとつのパーツ」としてみるようになって、重要度がかなり下がっているからだと思います。僕にとって、形や色などの要素がより重要になったから、その人の表情や気分とかいらなくなった。

 

―では、感情を込めて描いていくというより、全体の中の配置で考えていくタイプ?

 

しらこ:そうですね。僕はそういう描き方をしますね。

 

―「空気感」という言葉を先ほどうかがいましたが、人物の表情は空気感や物語性を加えるにあたって重要なファクターだと思います。とすると、しらこさんの中の「空気感」とは、パーツとパーツが組み合わさった時に起きる「雰囲気」「構成上の気持ちよさ」みたいなものと考えて問題ないですか?

 

しらこ:問題ないです。気持ちよさは完全に追及していますが、配置の仕方で物語性を考慮しているわけではないですね。最近は特に(笑)。

 

―「最近は」ということは、一時期意識していたこともあったんですか?

 

しらこ:というか、あまり物語性は意識していないです(笑)。さっきも話にあった、パッと見の気持ちよさとかですかね。正直、物語性はどうでもいいです。

 

―背景もそういうスタンスで描いているのですか?

 

しらこ:そうですね。

 

―正直な話、気持ちよさとか、空気感があれば、「人物は特に画面内へ置かなくてもいいかな」と思う時はありますか?

 

しらこ:いや、人物はいります。人物がいないイラストを描きたいとはなぜか昔から思わないですね。

 

―それは物足りないから?

 

しらこ:そうですね。主役的なものを入れておかないと。