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interview Vol.1

2015.03.02

HAIIRO DE ROSSI 復活作「KING OF CONSCIOUS」で見出した”希望””祈り”とは

2年間の沈黙を破り、HAIIRO DE ROSSIが復活作『KING OF CONSCIOUS』を携えて還ってきた。過去の作品に強く香っていた「夜」のイメージから一転し、今作では明るい陽射し差す「朝」のように明るいサウンドの中、泳ぐように歌われるHAIIROの声が印象的だ。
HAIIROが今作で力強く語る「希望」「祈り」とは一体なんなのか。
その謎を主にデザイン面とリリック面とで探るべく、HAIIRO DE ROSSI本人と、アートディレクターを務めた清野陽平氏を今回直撃した。読者もぜひその生の声を感じて欲しい。
(写真:寺沢美遊)

自然に浮かび上がる「クラシック感」を突き詰めた

―まず始めに、前の作品と今回の作品までの経緯を簡単に振り返ってもらえますか。

HAIIRO DE ROSSI(以下、HAIIRO):2011年に発表した3rdの『forte』は、それまで所属していた「SLYE RECORDS」(※1)から独立して制作したんですけど、あれがそれなりに成功したおかげで結構生活できるようになって。でも、震災などもあり、4thの『BLUE MOON』を出す時にはもう活動休止してたんですよ。

※1 SLYE RECORDS…ヒップホップシーンの新鋭トラックメーカーEccyをメインプロデューサーに2007年に設立された音楽レーベル。HAIIRO DE ROSSI、あるぱちかぶと、オロカモノポテチなどのアーティストが所属していた。

4thの『BLUE MOON』は、活動休止以前に完成させたものを後になってリリースしてるんですけど、実はもうマスタリングとかにもいけず、結構未完な部分もあって。そういう意味では、『KING OF CONSCIOUS』は、『forte』から3年半越しでがっちり最初から最後まで関われたアルバムっていう位置付けですね。

―今回のアルバムは「復活戦」という意味もあったんですか?

HAIIRO:そうですね。震災の影響も多々あり、周りの環境の変化も受けた結果、うつ病とパニック障害っていう病気にかかってしまって、2年間闘病生活をしてて。発症当初は表現をしたいっていう欲求も失ってたし、もう活力自体が全然なかったんですよ。でも、徐々に良くなってきて、『forte』を越えなきゃいけない壁だと自分の中で意識し始めて。

―レコーディング自体は発売前年の2013年から?

HAIIRO:いや、13年に録った素材は没にしてて。実際には14年の1月からです。

―清野さんと2人の間で話しながら作ったと聞いているのですが、最初コンセプトとして「クラシック感」、あと「冷たさ」、「無機質」、「北欧のような神秘的な感じ」を希望されてたっていう話ですよね。ただ、実際の音源から受ける印象は「明るさ」「温かさ」の印象が強くって。どういう意図があったのかなって気になるのですが?

HAIIRO:僕がデザイナーに要求する点として、やっぱり作品ってアッと言わせる何か、言っちゃえば「?」というか、疑問がないといけないんじゃないかなと。だからそういう意味では、ジャケットと音源って対になるような感じなんです。音聴いたら、予想してたものと違ったみたいな。

―ギャップをもうちょっと楽しんでほしい、と。

HAIIRO:そこで「クラシック感」っていうものを中心に持ってきて、ブレずに統一できてれば、自然と理想的なものになっていく。ただ、最初イメージしたものをそのままイメージどおりにっていうのは、やるべきでないなというのは思ってて。やっぱりアートディレクターに頼み、アートとして「じゃあ、どういう表情を見せたらいいのか」ってなったら、まず「重み」っていうのが分かるもの。で、聞き手に驚きを与えられるようなものであればとは思いました。

―さっき、『forte』の話が出ましたが、当時はジャケットのデザインと中身の音って結構一致していたと思います。

HAIIRO:あれは僕がやったんですよ。デザインも、音のことも全部。それまでずっと手伝ってくれた横田善紀(※2)くんにアドバイスをもらって。だからあの盤に関しては、やっぱり死の臭いというか、なんかそういうものを表現したかったし、多分表現せざるを得なかったであろう状況だったと思います。

※2 横田善紀…アートディレクター、デザイナー。HAIIRO DE ROSSIのデビューからほぼ全てのアートワークを手がける。AFED(アフターエディトリアル)という名義でアート、デザインの領域を横断しながら、「装置としてのデザイン」をコンセプトに活動している。

もしかしたら、病気になることとかを予期してたのかなって。今思うとちょっと「導き」みたいで怖いな。アルバムのジャケット一つで、個人の歴史が出てるっていう。

―逆に、今回のアルバムはちょっと余裕が出たということですね。

HAIIRO:密にコミュニケーションを取るっていうのがアルバムでできたことに加え、それぞれのスペシャリストがいるんだっていうことにも気付くことができた。ミックスだったり、マスタリングだったり、ビートだったり、ジャケットだったりっていう作業を、僕なりに信頼できるスペシャリストに頼んだっていうのが大きいです。

清野陽平(以下、清野): HAIIROが僕にデザインのコンセプトを伝える時も、今のメンタルみたいなものがすごく出てて。『forte』の時と比べて、全体的にクリアで不安な感じもなかったし、ビジュアルについて希望や温かさの視点が明確にあったんだと思います。

今回は幹をどんどん明確にしていくやり方で作っていきました。最初からいっぱいパターンを出すより、ある程度決まった中で命中させていくというか。その精度をどれだけ上げるかということに時間を使ってます。

HAIIRO:デザインについては、2人の中でもある程度「それしかないでしょ!」っていう感じを共有してたもんね。その中でも、さっき言った「クラシック感」に一番こだわったし、突き詰めていったと思う。

清野:クラシックって何でもそうだと思うのですが、作ろうと思って作れるものじゃなくて、自身にあるものが勝手に出てくるものじゃないかと考えてて。生まれてから今までのイメージとか、歴史とか、そういったの全部含めての「クラシック感」なんです。だから、新しく作るものに「クラシック感」を出すということはかなり考えないとできない。

HAIIRO:少なくとも僕の歴史を知らない人間には頼めない。

清野:HAIIROの中にある「クラシック感」を考え抜かないといけなかったので、そういう部分はすごく苦心しました。ベストアルバムみたいなものも作ったよね、最初。

HAIIRO:ちょっとメジャーっぽい感じのね

清野:ただ、今回は「ベストの内容」かも知れないけど、ベストアルバムではないなと。ベストアルバムって、自分の歴史をピックアップして、そこから曲をチョイスしてくるものなので、今回とは意味合いが全然違うと思ったんですよ。今回はHAIIROがブランクを経て出す、いわばリニューアルみたいな意味もある、一つの節目の作品なので。だからそれよりは、ずっと聴ける1枚のアルバムみたいな感じにしたかったんですよね。HAIIROの中にあるのは、そういう意味での「クラシック感」だろうなと思って。

―普遍ってことですよね。さっきの話にも関係するのですが、その普遍を際立たせるために、2人で試行錯誤を積み重ねていったと?

清野:そうですね。何回もいくつかある選択肢からデザインを選ばせていったのも、積み重ねでエッセンスが見えてくるのではと思ったからです。

HAIIRO:突き詰めたよね。

清野:かなり時間もかけたと思う。結果的には、最初にあった「冷たさ」、「無機質」、「北欧のような神秘的な感じ」という部分も、エッセンスとしては消えてないですね。

HAIIRO:でも、そういう意味では結構マニアックなものになったよね。すごいシンプルだけど、よく見てみたらマニアックだっていうのは、実物を手にしていると思う。

清野:デザインって、そぎ落として、要素が少ないものを作るほうが難しい。そこは「クラシック感」の大前提だと思ってて。試行錯誤を重ねたけど、できあがった感じとしては満足いくものにはなったかな。ここを直したいっていうのは今回はないです。

HAIIRO:俺もないな。